嗚呼、バンコクがらくた暮らし

　悲しいとか、辛いとか、そんな感情に陥ることはなく、ただ、ただ、あるのは戸惑いと虚無感だけ。うまく気持ちの整理ができていないのか。いや、どう気持ちの整理をすれば良いのか。それが全く分からないのです。異常なほどニュートラルでいる自分が、自分でも信じられないというのが、ほんとの今の感情かもしれません。
　前夜からラインが既読にならず、翌朝、携帯電話に電話するも出ることはなく。昼前、そして昼過ぎと何度か電話するも出ない。これは、もしかしたら……。そんなへんな胸騒ぎなんて杞憂で終わって欲しかった。
　３月９日午後２時半ごろ。彼の住むアパートに出向き、管理人に事情を話し警備員さん立ち会いのもとドアをノックしてみました。でも応答はなし。「きっと外出しているのでは。エアコンがついた状態だとドアノブが冷たいけど、この部屋のドアノブは冷たくないから」という警備員さん。それでも、念の為にと解錠してもらうと、付けっぱなしになった蛍光灯の光の下、ベットに寄りかかるようにして倒れている彼がいたのです。突然死、そして孤独死でした。
　死んだのだ。死んだんだよ。もうこの世に、あの人は居なくなったんだ。そう、頭では理解していても、なんか、まだ、そこいら辺にいて、電話がかかってきそうな感じ。日頃からの癖とはいえ、自分の晩酌のあてを作るついでに、彼の分もつい一緒に用意してしまう。
　まさか、そう、まさかのお別れ。勝手に行きやがって。面倒掛けやがって。早すぎるだろう。今年こそは北海道を一緒に旅行しようって約束したじゃん。自由人ではなく時遊人だった彼。
　今夜は彼が愛飲していたウィスキーをロックで一杯だけ喉に流し込んでみようと思います。